グレーブス病

グレーブス病は甲状腺機能亢進症の一型で、日本ではバセドー氏病として知られています。甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるために起ります。

グレーブス病患者は女性が主で、特に中年から若い世代の間で患者数の多いのが特徴ですが、この疾患で重篤な症状を起したり、死亡するような例はほとんどありません。

 

原因

グレーブス病は、原因不明の病気ですが、自己免疫によるものとされています。自己免疫とは、感染などに体する身体の防御反応が、自分自身の身体の組織を攻撃することを意味します。グレーブス病の場合、身体が甲状腺ホルモンを過剰に分泌する抗体を作ることが原因とされています。

甲状腺は、身体の新陳代謝機能を正常に保つ役割をします。つまり、心拍数、休息時における身体のカロリーやエネルギーの消費量など、その他さまざまな身体の機能を調節します。このため、甲状腺機能に異常が起ると身体には大きな負担がかかるわけです。

 

症状

グレーブス病の主な症状

  • 体重の低下
  • 心拍数の増加
  • 不安感
  • ほてり
  • 多汗

その他の症状としては、怒りっぽくなるなど情緒が不安定になりがちで、感情の制御ができにくくなります。また、筋力が衰え、特に足(大腿部)の筋力が弱くなり階段の上り下りが辛くなる場合もあります。稀には甲状腺が肥大し、喉の当たりが腫れる甲状腺腫と呼ばれる症状もみられます。

グレーブス病患者の約半数には目の症状が現われます。この場合、目が突出するためまぶたを完全に閉じることができず、または(目が)突出していなくても、まぶたが後退して白目の露出部分が多くなるため(虹彩/黒目のまわりの白目が露出している状態)、普通より目がとび出しているような印象を与えます。通常、目の乾燥症状(ドライアイ)や目の中に異物感や違和感があるなどの症状を伴います。時には、眼筋肉にも障害が起り、眼球を動かすのが不自由になることもあります。こうした目の症状は片眼にのみ現われる場合もありますが、通常は両眼に現われます。

 

診断方法は?

診断には既往症を詳しく確認した後、眼の検査を行います。また、触診により甲状腺が肥大していないかを調べ、心拍数の増加や血圧の上昇がないかも確認します。この他、上腕部や大腿部の筋肉に衰えがないか、手や指先の震えがないかの検査もあります。

最後に甲状腺ホルモンの血中濃度検査で確定診断が行われます。

甲状腺の肥大はないが触ると違和感があるような場合には、精密検査が行われる場合もあります。これは RAI(Radioactive Iodine scan の略で、放射性ヨードを造影剤に使う甲状腺造影検査)、甲状腺シンチと呼ばれ、甲状腺ホルモンの数値を正確に知ることができます(数値が過剰/過少、どちらの場合も異常とみなされます)。

甲状腺は、ホルモンの分泌のためにヨードを必要とします。このため、甲状腺シンチでは微量の放射性ヨードを造影剤として使用し、甲状腺が放射性ヨードを取り込んでホルモンを分泌する過程をスキャンで確認します。(放射性ヨードは3日で放射性を失います。

検査法には、超音波(ウルトラサウンド)を使用し、甲状腺の形態をみる検査もあります。超音波の映像で甲状腺に肥大があるかどうかが確認できる他、嚢胞や腫瘍の有無が確定できます。

 

治療法のオプションは?

甲状腺機能亢進症の原因となる抗体を取り除く治療法はありませんが、対症療法により、甲状腺ホルモンの数値を正常範囲にとどめ、症状を緩和することができます。

甲状腺ホルモンの数値を減らす薬は2種類あり、PTU(propylthioudaci)と methimazole、別名Tapazole と呼ばれます。一日3錠から開始し、2~4週毎に投薬の効果を確認しながら(甲状腺ホルモンの血中濃度を確認する)治療を進めます。どちらの薬を使用するかにより、数週間後に投薬量を一日1~2錠に落とすこともあります。

上記の甲状腺ホルモン抗製剤は、白血球の数値を下げる作用もあるため、投薬の開始前には白血球の数値を検査し、投薬中は数値の定期検査が必要となります。

甲状腺機能亢進症による症状を緩和するだけの薬はベータブロッカーと呼ばれ、投薬には Propranolol(Inderal)が使用されます。副作用として、心拍と血圧の低下がありますが、不安感は解消されるという利点もあり、甲状腺ホルモンの分泌に影響はありません。

甲状腺機能亢進症による症状が悪化したり、長期的に改善がみられない場合には、治療法として、甲状腺の組織を一部摘出することでホルモンの分泌を抑制する方法もあります。

摘出方法には2種類あり、1つは放射性ヨードを使用する方法です。2回の治療ですみ、被爆などのリスクはほとんどありません。ただし、この治療法で組織の大部分が摘出された場合には、甲状腺ホルモン製剤を永久的に服用する必要がある場合もあります。

重症患者または症状が長期的な患者には、甲状腺の切除手術という手段もありますが、これにはメリットとデメリットがあり、熟練の執刀医を選びリスクについてもじっくりと相談することが大事です。また、手術後は永久的に甲状腺ホルモンを服用します。

 

症状の持続期間は?

グレーブス病は、甲状腺ホルモン抗製剤の服用が開始すると8週間ほどで症状が緩和されますが、以後も少なくとも一年間は投薬治療が必要です。また、再発の可能性もあるため、以後医師による定期的な診断が必要となります。

また、治療で甲状腺を切除/摘出した場合には、永久的に甲状腺ホルモンの服用が必要となる場合もあります。

 

グレーブス病の予防には?

残念ながら、今の医学ではグレーブス病を予防する手立てはありません。